そういえば、と
眠る彼の傍で今日のことを思い返す。
そういえば彼の行動は、どこかいつもと違っていたのだ。
無表情で、話しかけたってそっけない返事はいつものこと。
だけどなんだか私を殴る回数も少なかったし、いつもよりは痛くは無かった気がする。
それに、彼の傍はなんだか熱かったような気もする。
そこまで思い出して自分の情けなさが嫌になった
どうして気付いてあげれなかったのか。
自分が気付いてあげれば、彼は道で倒れたりはしなかっただろう。
辛かったのだろうと。
「曽良くん・・・」
手に持つ親友であるぬいぐるみのマーフィー君をぎゅっと握り締めながら、辛そうに歪められた曽良くんの顔を見て、ぼそりと彼の名前を呟いて俯いた。
「・・・なん、ですか・・・」
声がした。
「そ・・・っ、曽良くん?!起きてたの?!」
聞こえた声に驚き、慌てて顔を上げると曽良くんはその辛そうに歪めた顔で私のほうを見ていた。
「起きて大丈夫なの?!熱は?!気分はどう!?」
「・・・うるさいです芭蕉さん、頭に響くのでやめてください」
黙らなければ殴ってでも黙らせますよ、と熱でほてった顔でいつものように言った。
「な、なぐらんといて!黙るから!ちゃんと静かにするから!ねっ!?
・・・でも安心したよ、少しは楽になったみたいで」
にこりと笑って、私は曽良くんのほうをみた
確かに、まだ少しつらそうだが宿に入ったときよりも、幾分かは顔色はよくなっている。
私はそれを見て安心した。
すると曽良くんは顔をふいっと背けた
「曽良くん?」
「あまり、近づかないで下さい。あなたにうつってしまったらどうするんですか」
驚いた。
こんなこと言っちゃ失礼かもしれないけど、普段あんなに私を足蹴にしてる曽良くんがうつるといけないからと私の体を心配してくれるなんて思っても見なかった。
「…でも私が離れてしまったら曽良くんひとりだよ?寂しくないの?」
「寂しくありません、寧ろゆっくりできます」
「でも…」
曽良くんは顔を背けたまま、こちらを見ようとはしない。
「でもやっぱり一人は寂しいよ、風邪を引いてるときならなおさら」
「……」
「それに、曽良くんが倒れちゃったのは気づかなかった私にも責任があるしっ」
別に、責任だから、だけじゃない
私が傍についていてあげたいだけだ。
「だから曽良くんが何と言おうと私はここにいるからねっ」
「……勝手にしてください」
ようやく、こちらを向いた。
その表情は心なしかうれしそうに見えるのは私の自惚れだろうか。
「早く、元気にならなきゃね」
「あたりまえです…」
***
それからずっと私は曽良君の傍についていた。
曽良くんは暖かい布団と宿の人に頼んで作ってもらったお粥とで、次の日の朝にはすっかりといつもの元気を取り戻した。
「芭蕉さん、さっさと行きますよ」
「ちょっと待ってよ、曽良くん!」
宿の人にお礼をいい、私たちはまた歩き出した。
「芭蕉さん」
「ん?なに?」
「……ありがとう、ございました……」
小さくて、消えそうな声で。
驚いて、はっと曽良君の顔を見ると顔を伏せていてもわかるくらい、真っ赤にしていた。
おもわず私は、ふっと微笑んだ。
「なにわらってるんですか」
「ふぎゃっ!」
曽良君に見つかって、彼の容赦ないチョップを食らう。
あぁ、いつもの日常が帰ってきた。
ずっと、だなんて約束はできないけれど
せめて、この旅の間だけは
君の傍で
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芭曽・・・だといいなぁ・・・
かなり前に書きかけてた小説を書き上げたもの。
やっぱりいつもオチが弱い…。
でも楽しかったです。(ぁ
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